
●使用人の人生――メイドたちの気持ち
『MANOR HOUSE』の参加者には「祖母がメイドだったから興味を持った」という人が多い。映像には登場しないが、プロジェクトに際し、70年前にマンダーストンで使用人として働いていた「おばあちゃん」が訪れて話をする機会があった。
ミセス・ベティ・ウィニー、彼女の人生を少し紹介しよう。

ベティがハウスメイドとしてマンダーストンに来たのは14歳の時。
これは、20世紀初頭の女性使用人としては普通の就業年齢である。
入ってすぐに彼女は2つの名を持つことになった。女主人の通称もベティだったので、かぶってしまうからだ。階上ではエリザベス、階下ではベティと呼ばれることになった。
ベティ/エリザベスがお金に関して思い出すのは、使用人たちがみんな貯金にはげんでいたことだ。節約のために、彼女は砂糖抜きでお茶を飲むよう努力する。フットマンたちも倹約に精を出した。服を洗濯に出すと費用がかかったので、各自でシャツを洗濯していた。ある時、1人のフットマンが言った。
「アイロンをかけてくれって。それを断ったら、彼は私を銀器庫に押し込んで、鍵をかけて映画を見に行ってしまったのよ。幸いなことに、ハウスキーパーが彼に会って私のことを問いただしたから、フットマンは戻ってきてドアを開けてくれたわ。その時私は床に倒れて気を失ってた。空気が足りなかったのね。もし映画が一晩かかる長さだったら、今、私はここにはいないわね」
執事にもいい思い出がない。彼は好色で、ベティがひとりで部屋を掃除している時、
「触っちゃいけないところに触ってきたから、ブラシでひっぱたいてやったわ。頬から血が出てた。でも彼はヒゲそりに失敗したフリをしていた。マンダーストンをやめたのはその事件のせい。誰にも相談できなかった。私が職を変えるしかなかったの」
仕事はハードで休みはないし、セクハラにあっても身を守る手段がない。それでもベティは、レベッカとジェシカに、マンダーストンでの自分は「恵まれていた」となつかしげに語る。「工場と違って、使用人の仕事ではいろんな人に会えるからね。素敵な部屋に住めたし、おいしいものが食べられた。ものごとをきちんとやる手順も学べた。休みは少なかったけれど、楽しみは自分たちで作り出せた」――フットマンたちはいじわるなばかりでなく楽しいイタズラの仕掛け人だった。「シーツにタピオカを入れられたことがあった。寝づらいったらなくて、掃除するのが悪魔みたいに大変だったわ」

メイドどうしの関係もさまざまだった。番組内で当時の習慣を再現するため、スカラリーメイドのエレンと第三ハウスメイドのエリカは小さな部屋に同居し、ベッドをくっつけてシェアすることになる。同年代の女の子たちがそんなふうに暮らせば、友情が生まれたとしても不思議はない。……ただ、長い勤務時間中ずっと一緒、部屋もベッドも一緒では、もし気が合わなかったら悲惨かもしれない。
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【キーワード解説】
ハウスメイド
→掃除やベッドメイクなど、屋敷の清掃とメンテナンスを行うメイド。
ハウスキーパー
→ハウスメイドたちを管理監督する責任者。陶磁器やリネンの管理を主に担当する。家政婦、女中頭と訳されることも。
フットマン
→室内で働く男性使用人。客の応対、給仕、銀器の手入れなどを担当する。見栄えと身長が重視される職種。
スカラリーメイド
→キッチンの下働き。鍋などの調理器具や食器などを洗ったり、食材の下ごしらえを担当する。
















