
皇太子時代のエドワードは、よき君主になるべく厳しい教育をうけて育ったものの、どうにもできが悪い悪いと両親から言われ続けていた。
女王からは統治の現場にけっして手を触れさせてもらえず、そのうえ彼女は長生きしたので、いつまでも王冠はまわってこなかった。やがて貴族や富豪の友達をはべらせ、人妻と派手に遊び(*注1)、狩猟と海外リゾートに浸るようになった。エドワードが起こした恋愛事件のせいで愛する夫は命を縮めたのだといって、ヴィクトリアは一生許さなかったという。
ここで終わるとただダメなだけの人のようだが、意外にそうでもないと評価する向きもある。長年の遊び好きが幸いして、エドワード七世の外交手腕はなかなかのものだったといわれている。しかし王になってから残された時間は短く、わずか十年で世を去った。エドワード時代とは、彼の治世1901年~1910年を指すが、様式としてのエドワーディアンには、少し先の1914年までを含めることもあるそうだ。「厳格な母」から解放された「放蕩息子」の時代は、第一次世界大戦の勃発を期に終わりを告げたのである。
さて、これが『 MANOR HOUSE 』の時代背景だ。1905年から1914年までを舞台に、全国から集まったボランティアたちが、裕福な一家と使用人の役を演じる。「演じる」とはいっても、ドラマとは違って決まった台本はない。環境と題材のみを与えられた実録番組なのだ。
准男爵(*注2) 家のオリフ=クーパー一家が、たくさんの使用人にかしずかれながら、ロバート・アダム(*注3) 風に美しく復元されたマンダストン・ホールで豪勢に暮らす。晩餐会、狩猟パーティー、慈善イベントに仮装舞踏会。華麗にして軽薄なエドワーディアンの上流生活の裏では、執事やシェフやハウスキーパー、メイドやフットマンたちが超長時間労働に苦しんでいた。
彼らはみんな本当は現代に生きる普通の人だし、エドワード時代の人びととはちがって、あまりにも辛ければリタイアするという選択肢だってある。けれど当時を模して作り込んだ舞台にどっぷりつかっていると、しだいに心まで影響されてくる。屋敷と調度品と料理とドレスと、しきたりを記したルールブックが、みんなの心に「エドワーディアン」の形を作っていく。奥のほうには母なる「ヴィクトリアン」も鎮座ましましている。なにせルールブックがメイドたちに要求する規則は、ほとんどヴィクトリア時代の使用人指南書から変わっていないのだ!
こまごまとした歴史のディテールを楽しみながら、人の心がたどる時間旅行の軌跡をも目撃してほしい。
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【注1】 エドワード七世の臨終の床にも招かれたという愛人のアリス・ケペル夫人は、不倫の関係から結婚にいたった現在のチャールズ皇太子夫人の曾祖母にあたるというので話題になった。
【注2】 公爵から男爵までの、上位の「peerage/貴族」には含まれないが、世襲の称号を持つ、いわゆるジェントリーの一員。本作品撮影中のみの設定であり、もとのオリフ=クーパー家には称号はない。
【注3】 ロバート・アダム(1728-1792)は、十八世紀に活躍した建築家・内装デザイナー。ローマ時代の建築様式を取り入れた、エレガントな「新古典様式」で、十八世紀英国のカントリーハウス界を席巻した。現在にいたるまでとても人気がある。『MANOR HOUSE』の舞台である「マンダストン・ホール」は、アダムの作品ではないが、彼の手がけた「ケドルストン・ホール」に影響を受け、とっても「アダムっぽく」仕上げられている。
【参考文献】
森護『英国王室史話 下』
川本静子 松村昌家 編著『ヴィクトリア女王―ジェンダー・王権・表象』
ストレイチイ『ヴィクトリア女王』
デニス・フリードマン モス貂子訳『王家の遺産 英国王室心理史』
ケネス・ベイカー著 樋口幸子訳『英国王室スキャンダル史』
田中亮三 増田彰久『英国貴族の邸宅』
Juliet Gardiner『Manor House』
『リーダーズ英和辞典』
『ジーニアス大英和辞典』
『Oxford Dictionary of ENGLISH』
















